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不連続終活小説 Nさんのエンディング ①
- iwata-hiroki
- 2022年5月30日
- 読了時間: 2分
名古屋の中心部に「栄」という街がある。言わずと知れた官庁街であり、名古屋随一のオフィス街、歓楽街でもある。古いカーナビだと、「サ(・)カエ」と第一音節にアクセントを置かれたりして気持ち悪いが、地元の人間は歴史的にも100パーセント平板アクセントで言っている。あのアイドルグループのおかげもあって、全国的にも浸透してきただろうか。
その栄が属する名古屋市中区の東の外れに新栄という街がある。私の事務所は、その新栄のさらに東の外れにある。その名前に反してたいそう古い街で、近くには古典的な幽霊が出そうなおんぼろビルがいくつかある。
パッと見、冴えないこの街も、秋はなかなかいい感じになる。地味な街並に銀杏が鮮やかな色彩を加えてくれる。特に、事務所の近くを走る幹線道路の「桜通り」は、数キロメートルの直線道路が見事な銀杏並木で彩られる。
11月初めの朝8時30分、朝日を浴びて金色に輝く銀杏の木々を眺めながら事務所に向かって歩いていると、携帯の着信音が鳴った。この時間は開業前で、まだ誰も事務所にいない。そんなときは、事務所の固定電話にかかってきた電話はすべて私の携帯に転送される。
「おはようございます。いわた事務所です」
「おはようございます。Nと申します。あのー、遺言のこととかでご相談したいことがあるんですけど・・・」
高齢の女性だろうか、落ち着きのある上品な感じの話し方だった。
※この作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一部を除いて関係ありません。
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