iwata-hiroki
- 2023年1月6日
不連続終活小説 Nさんのエンディング⑱
このようなケースでは、以下のような書類が必要となる。 ①通帳裏表紙のコピー ②マンションの登記事項証明書 ③マンションの固定資産税納税通知書 ④Nさんと弟さんの親族関係を示す戸籍謄本 ⑤Nさんの印鑑証明書 「このうち、通帳コピーと納税通知書は今写真を撮らせていただきますね」...
iwata-hiroki
- 2023年1月6日
不連続終活小説 Nさんのエンディング⑰
ここで、私は考えを巡らせた。Nさんは、親の遺産でこのマンションを買ったという。だとすると、共同相続人であったと思われる弟は姉の財産状況をある程度把握し、もう80歳を超えた姉の遺産がすべて自分のもとに来ることを期待しているかもしれない。その弟が、遺産の大半が第三者に渡されると...
iwata-hiroki
- 2022年12月23日
不連続終活小説 Nさんのエンディング⑯
「他に、株とか投資信託とかはお持ちじゃないですか?」 「いいえ、他には何にもありません」 「そうですか。ありがとうございました」 と言って、私はシートをめくって備考欄を開いた。 このまま何もしないでNさんが亡くなったとすると、遺産はすべてNさんの弟が手に入れることになる。遺...
iwata-hiroki
- 2022年12月1日
不連続終活小説 Nさんのエンディング⑮
「こちらのお住まいは、Nさんご所有ですか?」 「はい。5年ほど前に購入しました」 「なるほど。名義はNさんだけですか」 「ええ、そうです」 遺言書に財産を表示する際、単独所有であるか持分の共有であるかは明示しなければならないので、これも重要な要素だ。...
iwata-hiroki
- 2022年12月1日
不連続終活小説 Nさんのエンディング⑭
前述のとおり、われわれ法律専門職が扱う遺言書の多くは公正証書によるが、以下のような場合には自筆証書を選択することもある。それは、余命幾ばくもない状態で時間的余裕がない場合や、以下の要件をすべて満たすような場合だ。 ①相続人が遺言の内容に異を唱える余地がない...
iwata-hiroki
- 2022年10月22日
不連続終活小説 Nさんのエンディング⑬
公正証書遺言作成手続の依頼を受けると、まずは依頼者の情報に基づいて戸籍や登記事項証明書を収集し、ご本人から通帳のコピーなどの提供を受けて、推定される相続人と財産の状況を確認する。その後、ご希望に合わせて遺言書の文案を作成し、これを管轄の公証役場にメールで送信し、チェックを受...
iwata-hiroki
- 2022年9月23日
不連続終活小説 Nさんのエンディング⑫
ところで、普通の相続手続では亡くなった人の出生から死亡までの戸籍だとか、相続人全員の戸籍を提出しなければならないが、遺言書さえあればそのほとんどは不要となる。通常、生まれてから亡くなるまでの間にその人について4~5通の戸籍が編製されるが、戸籍を頻繁に移す人や婚姻離婚を繰り返...
iwata-hiroki
- 2022年8月28日
不連続終活小説 Nさんのエンディング⑪
「仮にみなさんがその相続分を奥様に譲渡することを承諾したとしても、全員から印鑑証明書をいただいて、遺産分割協議書に実印をもらわなければなりません。ところで、ご兄弟はみなさんご存命ですか?」 「いえ、長兄とすぐ下の妹はすでに亡くなっています」 「その方にお子さんは?」...
iwata-hiroki
- 2022年8月6日
不連続終活小説 Nさんのエンディング⑩
ところで、遺言書には、相続に関する自分の意思をはっきり示し、親族間の争いを防ぐという機能の他に、相続手続を簡単にするという機能がある。 まだ開業間もない頃、事務所の近くに住むSさんから電話があった。遺言書の作成について相談したいという。聞いてみると、60歳を過ぎて初めて結婚...
iwata-hiroki
- 2022年8月4日
不連続終活小説 Nさんのエンディング⑨
自筆証書の場合、専門家のチェックを受けることなく作成できてしまうので、内容が不明確だったり、実現できない内容が含まれていたり、あるいわ形式が民法の要件を充たしていなかったりして、往々にして争いのもとになる。つまり、その遺言の内容に満足しない相続人から、「そんな遺言は無効だ」...
iwata-hiroki
- 2022年7月28日
不連続終活小説 Nさんのエンディング⑧
「そうですか。では・・・」 私は、動揺を隠しきれないままいつものように説明を始めた。 「遺言書の形式には、自筆証書遺言とか公正証書遺言とかいった種類があるのはご存知ですか」 「ええ、自分なりに少しは調べましたので。でも、私の場合はどちらがいいのか判断がつきかねますので、教え...
iwata-hiroki
- 2022年7月21日
不連続終活小説 Nさんのエンディング⑦
Nさんのような相談を受けた場合、次のような対応が思い浮かぶ。 ・任意後見契約 ・財産管理契約 ・遺言書作成 ・死後事務委任契約 このうち、任意後見契約というのは、今はまだ認知症ではなく判断能力もしっかりしているが、それを失ってからでは自分で何も決められなくなってしまうので、...
iwata-hiroki
- 2022年7月17日
不連続終活小説 Nさんのエンディング⑥
促されるままダイニングのテーブルに座ると、程なくして湯呑を乗せたお盆を持ったNさんが向いに腰を下ろし、 「お電話でも少しお話ししましたが」と話し始めた。 「もうこんな年齢になりまして、子供もなくて一人暮らしなものですから、これからのことが心配で。ここで孤独死なんてことになっ...
iwata-hiroki
- 2022年6月30日
不連続終活小説 Nさんのエンディング⑤
こういう部屋を片づけてくれる業者がいることは知っているが、おそらく20万円以上はかかるだろう。しかし、あらかじめ調査したところによると、Kさんには現金も預貯金もほとんどなかった。それに、援助してくれる身寄りもまったくなかった。...
iwata-hiroki
- 2022年6月20日
不連続終活小説 Nさんのエンディング④
愛知県郊外の借家で一人暮らしをしていたKさんは、近くの畑から勝手に野菜を失敬する、真冬にノースリーブのワンピースで近所をうろつく、一晩中洗濯機を回し続けるといった奇行が目立つようになり、ついにはタバコの火の不始末でボヤ騒ぎを起こし、老人介護施設に入所することになった。その施...
iwata-hiroki
- 2022年6月7日
不連続終活小説 Nさんのエンディング③
Nさんのご自宅は、表通りから少し入ったところにあった。この地域にしては、割と閑静な住宅街だ。まだ新しいなかなかお洒落なマンションで、エントランスにはオートロックが施されている。 その9階に、Nさんの部屋があった。玄関を開けて出てきたのは、やはり80代に見える女性だった。長身...
iwata-hiroki
- 2022年5月30日
不連続終活小説 Nさんのエンディング②
「お電話ありがとうございます。こちらにお越しいただいてもけっこうですし、ご希望であればこちらからうかがいますよ」 相談は随時受けつけている。同業者のなかには、出張相談を敬遠する者が少なくないが、私は厭わない。 「そんなに自由には動けないので、来ていただいてもいいですか?」...
iwata-hiroki
- 2022年5月30日
不連続終活小説 Nさんのエンディング ①
名古屋の中心部に「栄」という街がある。言わずと知れた官庁街であり、名古屋随一のオフィス街、歓楽街でもある。古いカーナビだと、「サ(・)カエ」と第一音節にアクセントを置かれたりして気持ち悪いが、地元の人間は歴史的にも100パーセント平板アクセントで言っている。あのアイドルグル...