不連続終活小説 Nさんのエンディング⑫
ところで、普通の相続手続では亡くなった人の出生から死亡までの戸籍だとか、相続人全員の戸籍を提出しなければならないが、遺言書さえあればそのほとんどは不要となる。通常、生まれてから亡くなるまでの間にその人について4~5通の戸籍が編製されるが、戸籍を頻繁に移す人や婚姻離婚を繰り返す人の場合、10通にもなったりする。また、相続人がたくさんいて全国各地に散らばったりしていると、その役所ごとに戸籍の請求をしなければならないからその作業量は膨大だ。
「遺言書があれば、そういった手間もかなり省けるってことですね。それなら、遺言書を作ることにしましょう。手続をお願いできますか?私は何をすればいいのかな」
Sさんはそう言って手帳を開いた。
私は、「かしこまりました」と言って必要書類や手続の流れを説明した。
一通り説明が終わると、Sさんはほっとした表情で口を開いた。
「もともと結婚なんかするつもりはなかったんですけどね。死ぬまで独りでもいいかなって。でもまあ、縁あって彼女がウチに来てくれましてね。こんな年になっちゃいましたが、初めて自分の家庭が持てて、ここ何年かは自分にとってとても大切な時間でした。これでもう思いのこすことは・・・」
そう言いかけてから、Sさんはハッとわれに返り、
「いやぁ、ごめんなさい。遺言書作るって決めたら、もう死ぬ気まんまんになっちゃって」
私とSさんは顔を見合わせて笑った。
※この作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一部を除いて関係ありません。
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