不連続終活小説 Nさんのエンディング⑦
Nさんのような相談を受けた場合、次のような対応が思い浮かぶ。
・任意後見契約
・財産管理契約
・遺言書作成
・死後事務委任契約
このうち、任意後見契約というのは、今はまだ認知症ではなく判断能力もしっかりしているが、それを失ってからでは自分で何も決められなくなってしまうので、今のうちに誰を後見人にしてどのようにサポートしてもらうのかを契約しておき、将来認知症がひどくなったときに備えておくというものだ。
その際、財産管理契約を組み合わせることがままある。判断能力が著しく減退する前ではあっても、体が不自由であったり自ら財産を管理することに不安があったりする場合に、われわれ専門職に代理権を与えて預貯金の管理をさせたり、重要な法律行為を行わせるというもので、後見が発動するまではこちらで対応するという感じだ。
Nさんの場合、かなりしっかりしているようなので、直ちにこれらが必要とも思われない。どのような希望をもっているのだろうか。
「実は、ステージ4の肺がんを宣告されていまして」
彼女は静かな口調で淡々と言った。私は虚をつかれ、一瞬時が止まったように感じた。
Nさんからは、何の表情の変化も読み取れない。諦念なのか覚悟なのか、ここまでの平静さに至るまでの心痛は如何ばかりだったろうかと思う。私はとっさに言葉が出ず、「そうですか・・・」というのがやっとだった。
「それでね、まずはちゃんと遺言書を残したいんです」
※この作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一部を除いて関係ありません。
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すべて表示このようなケースでは、以下のような書類が必要となる。 ①通帳裏表紙のコピー ②マンションの登記事項証明書 ③マンションの固定資産税納税通知書 ④Nさんと弟さんの親族関係を示す戸籍謄本 ⑤Nさんの印鑑証明書 「このうち、通帳コピーと納税通知書は今写真を撮らせていただきますね」...
ここで、私は考えを巡らせた。Nさんは、親の遺産でこのマンションを買ったという。だとすると、共同相続人であったと思われる弟は姉の財産状況をある程度把握し、もう80歳を超えた姉の遺産がすべて自分のもとに来ることを期待しているかもしれない。その弟が、遺産の大半が第三者に渡されると...
「他に、株とか投資信託とかはお持ちじゃないですか?」 「いいえ、他には何にもありません」 「そうですか。ありがとうございました」 と言って、私はシートをめくって備考欄を開いた。 このまま何もしないでNさんが亡くなったとすると、遺産はすべてNさんの弟が手に入れることになる。遺...
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