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不連続終活小説 Nさんのエンディング⑤

こういう部屋を片づけてくれる業者がいることは知っているが、おそらく20万円以上はかかるだろう。しかし、あらかじめ調査したところによると、Kさんには現金も預貯金もほとんどなかった。それに、援助してくれる身寄りもまったくなかった。

 私は、打ち合わせの席で正直に大家に話した。いかにも地方の地主といった風情の70代と思しき大家は、築50年以上は経っていそうな旧家の居間で腕を組んでしばらく考えてから、

「分かりました。私が何とかしましょう。こちらもずい分迷惑をかけられましたが、あの人も好きでこうなったわけじゃない」と鷹揚に言った。

 私が胸を撫でおろしていると、大家はすかさず言葉を継いだ。

「ただし、先生にも手伝ってもらいますよ」


 次の日曜日、私がKさんの自宅で待っていると、軽トラックが建物に横付けされた。大家が調達したもので、自らハチマキ姿でハンドルを握っていた。とりあえず大家のところまで運んでおいて、分別した後、それぞれの収集日に出してくれるという。それから3時間ほど、私たちは部屋とトラックの間を何度も往復した。8月の熱い盛りの頃である。二人とも汗だくで残置物を運んだ。

 ところで、司法書士や弁護士専といった専門職後見人は、基本的に年一回家庭裁判所に報酬付与の申立を行い、審判で決定された報酬額を本人の財産から受け取る。多くの仕事をすれば報酬額が増えるという単純なものではない。本人の収入や資産が重要な基準となるので、どんなに大変な思いをして施設や役所へ走り回ったり、厄介な手続に時間を費やしたりしても、本人の収支が悪ければ大した額は望めない。それでも、「誰かがやらなければならない」と思いながら、多くの司法書士はこの業務に取り組んでいる。

 一方、生命保険金の受取りや遺産相続、自宅の売却等の手続を行なって本人の財産が増えたような場合は、その分が加算されて年間報酬がぐっと上がることもある。しかし、私はそういう案件に当たったことがほとんどない。

 滝のように流れる汗を拭いながら、「こんなことをしても、報酬にはまったく反映されないんだろうな・・・」と思いつつ、私は塗装がすっかり剥げ落ちた古ダンスを運んだ。


※この作品はフィクションであり、実在する人物、団体等とは一部を除いて関係ありません。

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