不連続終活小説 Nさんのエンディング⑪
更新日:2022年9月23日
「仮にみなさんがその相続分を奥様に譲渡することを承諾したとしても、全員から印鑑証明書をいただいて、遺産分割協議書に実印をもらわなければなりません。ところで、ご兄弟はみなさんご存命ですか?」
「いえ、長兄とすぐ下の妹はすでに亡くなっています」
「その方にお子さんは?」
「ええ、それぞれ二人か三人いたと思います」
「交流はありますか?」
「いいえ、特に妹の子どもは二人とも九州で所帯を持っているみたいで、会ったこともありません。この子たちも関係あるんですか?」
「はい。このままいけば法定相続人になります」
実は、こういった「疎遠な遠縁」がいると、かなりこじれることがある。「自分の相続分に相当する金を払え」と言ってくればまだいいが、手紙で意向を尋ねても一切返答しない人がいる。その人にしてみれば、会ったこともない人が亡くなって自分がその相続人だと突然言われ、しかもその相続分がわずかな金額だったりすれば、自分は関わりたくないから、そっちで勝手にやってくれという心境にもなるだろう。しかし、そうはいかない。すべての人から印鑑証明書を提出してもらい、遺産分割協議書に実印をもらわない限り手続はストップする。私が以前関わった件で、遺産分割案を提示した手紙を開封することなく、封筒に「受取拒絶」と書かれて突き返されたこともある。その理由は、今もってまったく分からない。
「そんな場合はどうするんですか?」Sさんは言った。
「裁判所の手続を使うしかありませんね」
「訴訟?」
「いえ、まずは調停です。相続人間で話し合いがまとまらないときや話し合いができないときに、裁判所のなかの部屋で調停委員を交えてみんなで話し合うというものです」
Sさんは、
「けっこう大ごとになっちゃうんですね。嫁さんはけっこう気が弱いところがあって、うちの兄弟との交渉だとか、裁判所でどうのこうのとかってのはなるべくさせたくないんですよね」と言って少し笑った。
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ここで、私は考えを巡らせた。Nさんは、親の遺産でこのマンションを買ったという。だとすると、共同相続人であったと思われる弟は姉の財産状況をある程度把握し、もう80歳を超えた姉の遺産がすべて自分のもとに来ることを期待しているかもしれない。その弟が、遺産の大半が第三者に渡されると...
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